監修:行政書士 渡邉徳人(行政書士事務所WITHNESS 代表・熊本県行政書士会 第05430405号)最終更新日:
元請業者は、下請業者に工事を出すとき「注文者」の立場になります。建設業法は、立場の強い元請が下請に無理を押しつけないよう、見積りから契約、工事中、支払いまで、元請が守るべきことを細かく決めています。これらは一般建設業・特定建設業を問わず、下請に工事を出すすべての元請に当てはまり、特定建設業の元請には、さらに支払期日などの義務が加わります。
このページでは、元請業者の義務を工事の流れに沿って整理し、令和6年の法改正で加わった点もあわせて解説します。国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」で、違反になる例として示されているものも紹介します。
1. 見積り・契約の前
- 見積条件の提示
- 工事の内容や工期などを、できる限り具体的に示す「一式」だけで細かな条件を示さないまま見積りを求めるのは不適切です(建設業法第20条第3項)。
- 見積期間
- 下請が見積りをするための期間を設ける予定価格が500万円未満の工事は1日以上、500万円以上5,000万円未満は10日以上、5,000万円以上は15日以上です。やむを得ない事情があるときは、10日・15日の期間を5日まで短くできます(施行令第5条の9)。
- リスク情報の通知
- 工期や金額に影響しそうな事情を、契約までに伝える地盤沈下のおそれなど、工期や請負代金に影響する事情を知っているときは、その情報を下請に通知します(建設業法第20条の2、令和6年改正)。
- 見積書の尊重
- 下請の見積書の材料費・労務費などを、著しく下回るよう求めない下請が出した材料費や労務費の内訳を、通常必要な額を大きく下回るまで削らせることは禁止されています(建設業法第20条第6項、令和6年改正)。
- 低すぎる金額
- 原価を割る請負代金を押しつけない取引上の立場を利用して、通常必要な原価に満たない金額で契約させることは禁止です(建設業法第19条の3)。元請が一方的に金額を決めて押しつける「指値発注」も、根拠を示して十分に協議しなければ、これに当たるおそれがあります。
- 短すぎる工期
- 通常必要な期間より著しく短い工期にしない休日や天候、準備期間を考えない無理な工期は禁止です(建設業法第19条の5)。
2. 契約のとき
下請契約は、工事に着手する前に、書面で結ばなければなりません(建設業法第19条)。工事内容、請負代金の額、工期、支払いの時期と方法、設計変更や天災のときの扱い、資材の価格が変わったときの代金の変更の方法など、決められた項目を書いて、双方が署名か記名押印をして交わします。
- 注文書と請書のやり取りで契約する場合も、同じ項目が書かれている必要があります
- 相手の承諾を得れば、電子契約でもかまいません
- 追加工事や工期の変更も、その都度、変更の内容を書面にして交わします
「口約束で着工、契約書はあとから」は建設業法違反です
急ぎの工事でも、着工前に書面を交わすのが原則です。追加工事を口頭で頼み、あとで金額を一方的に決めることも、トラブルと違反のもとになります。
3. 工事中
- 意見を聴く
- 工程の細目や作業方法を決めるときは、あらかじめ下請の意見を聴く建設業法第24条の2
- 購入の強制
- 契約した後に、資材や機械、その購入先を指定して買わせない下請の利益を害する購入の強制は禁止です(建設業法第19条の4)。指定が必要なら、見積りの段階で条件として示しておきます。
- やり直し工事
- 下請に責任のないやり直しは、費用を元請が負担する元請の指示の誤りや設計変更によるやり直しを、下請にただで行わせるのは不適切です。
- 工期の変更
- 工期が変わるときは変更契約を結び、増えた費用を一方的に下請に負担させない下請に責任のない工期の延長や短縮で増えた費用は、元請が負担します。
4. 完成・支払い
- 前払金を受けたら、下請にも配慮する
元請が発注者から前払金を受けたときは、下請にも、資材の購入や作業員の手配に必要な費用を前払いするよう配慮します(建設業法第24条の3第3項)。
- 完成の通知から20日以内に検査する
下請から完成の通知を受けたら、20日以内のできるだけ短い期間で検査を終えます。完成を確認したら、下請の申し出があればすぐに引き渡しを受けます(建設業法第24条の4)。
- 支払いを受けたら1か月以内に支払う
発注者から出来高払いや完成払いを受けたら、その日から1か月以内のできるだけ短い期間で、下請が施工した分の代金を支払います。労務費にあたる部分は、現金で支払うよう配慮します(建設業法第24条の3)。
- 赤伝処理
- 下請と合意していない費用を、代金から一方的に差し引かない廃棄物の処理費や安全協力会費などを差し引く場合は、見積りの条件や契約書にあらかじめ書いて、双方で合意しておく必要があります。
- 不利益な扱い
- 下請が違反を通報したことを理由に、取引を止めるなどしない国土交通大臣・都道府県知事・公正取引委員会・中小企業庁への通報を理由とした不利益な扱いは禁止です(建設業法第24条の5)。
5. 特定建設業の元請に加わる義務
- 50日以内の支払い
- 引き渡しの申し出の日から50日以内に、下請代金を支払う対象は、下請が一般建設業者や個人、資本金4,000万円未満の法人の場合です。発注者から支払いを受けていなくても、この期日までに支払います。期日を過ぎると、年14.6%の遅延利息がかかります(建設業法第24条の6、施行規則第14条)。
- 手形の制限
- 支払期日までに金融機関で割り引くことが難しい手形で支払わない令和6年11月から、支払期日までの期間が60日を超える手形は、割引が難しい手形として扱われています。
- 下請の指導
- 発注者から直接請け負った工事では、下請が法令に違反しないよう指導する違反を見つけたら是正を求め、直さないときは許可行政庁に通報します(建設業法第24条の7)。
- 施工体制台帳
- 下請の合計が5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)なら作成するくわしくは施工体制台帳とは?をご覧ください。
工事の丸投げ(一括下請負)の禁止
請け負った工事を、そのまま一括して他の業者に請け負わせること(いわゆる丸投げ)は、建設業法で禁止されています(建設業法第22条)。丸投げを受ける側も禁止されているので、元請・下請の両方が注意する必要があります。
- どんな場合が丸投げになる?工事の全部や主な部分を、一括して他の業者に請け負わせる場合工事の一部でも、ほかの部分から独立して機能する工作物の工事を一括して任せる場合は、丸投げに当たります。
- 丸投げにならないのは?元請が施工に「実質的に関与」している場合施工計画の作成、工程・安全・品質の管理、下請業者どうしの調整や技術的な指導などを、元請が自ら行っていることが必要です。現場に技術者を置いているだけでは足りません。
- 発注者の承諾があればよい?民間工事は、事前に発注者の書面での承諾があれば例外として認められるただし、公共工事と、共同住宅(マンション・アパートなど)を新築する工事は、承諾があっても一切禁止です。
丸投げに違反すると、原則として営業停止処分の対象になります。また、丸投げした工事は、経営事項審査の完成工事高に含めることができません。
最近の指導の傾向
国土交通省は、「建設Gメン」と呼ばれる調査員が、元請・下請の取引の実態を調べています。九州地方整備局が令和8年7月に公表した結果(令和7年7月〜令和8年6月)では、九州の139社(うち熊本県14社)を調べ、約半数の72社が指導を受けました(九州地方整備局:令和7年度の活動結果)。
- 見積書
- 71件材料費・労務費などの内訳を書いた見積書を作っていない会社が41.5%ありました。元請が見積条件を具体的に示していない例も24.7%ありました。
- 契約書
- 29件法律で決まった記載事項がそろっていない契約書が19.4%ありました。
- 価格転嫁
- 17件資材価格が上がったときの代金の変更方法を、契約書に書いていない例が12.2%ありました。
- 請負代金・工期
- 各3件原価割れの契約や、無理な工期についての指導です。
同じ年度には、九州で4社が営業停止処分、1社が指示処分を受けています。見積書と契約書のひな形を、令和6年の法改正に合わせて見直しておくことが大切です。
守らないとどうなる?
元請の義務に違反すると、国土交通大臣や知事から指導を受けるほか、指示処分や営業停止処分の対象になることがあります(営業停止期間中は何ができる?処分の基準と無許可営業の罰則)。また、下請との契約書や支払いの記録は、営業所の帳簿に添付して保存する義務があります(備付帳簿の義務)。この帳簿の義務は、特定建設業に限らず、すべての建設業者にあります。
「元請だから強い」のではなく、元請には、下請も含めた現場全体を適正に回す責任があります。契約書のひな形や支払いのルールを、一度社内で見直しておくと安心です。
元請としての体制づくりでお困りの方へ
- 特定建設業の許可の取得や、元請として必要になる契約書・帳簿の整え方を、工事の内容をうかがってご案内します。
- 施工体制台帳とは?:下請が大きい工事で必要な台帳
- 工事現場に配置する技術者:主任技術者・監理技術者の決まり
- お電話でのご相談:096-283-6000(ご相談は無料)



